決断について
PyCon JP 2025 座長 @nishimotz が個人として公開する日報の第4回です。
主催メンバー勉強会の開催を予定しています。
- PyCon JP 2025 主催メンバー勉強会 #1 2024年12月17日 19:30開始
- PyCon JP 2025 主催メンバー勉強会 #2 2024年12月20日 19:30開始
年内はこの2回で終わる予定です。 応募してくださった皆様全員が1回は参加できるように、1月以降も日程を調整していきます。
この記事では、判断や決断について考えます。
決断には2種類ある
私は Prime Reading で見つけて数年前のお正月に読んだのですが、ジェフ・ベゾスのレターを解説した本 (ベゾス・レター:アマゾンに学ぶ14ヵ条の成長原則)にこんな記述があります。
1型の決定
- 重大かつ元には戻せない(あるいは戻しづらい)一方通行のドアのような決定
- 慎重に時間をかけて検討と協議を重ねなければいけない
2型の決定
- 変更することも元に戻すこともできる
- 最善の決定でなかったとわかったら、もういちどやり直せる
- 決断力のある人や少人数のグループが決定を下すべき
この本では決定と言っていますが、以降は「決断」という言葉を使います。
終わっている決定
この分類で考えると、PyCon JP 2025 について、いくつかの「1型の決断」が終わっています。
- 会場: 広島国際会議場
- 日程: 2025年9月26日・27日
- 座長: nishimotz
この決定は一般社団法人 PyCon JP Association が行いました。
パーティに関する判断
広島国際会議場を使うカンファレンスに関わるのは3回目なので、座長が決まる前から、 私は施設や行政の誘致担当の人と話をしています。
私がいままで得た情報として、 パーティに関しては年末までに(つまり、もうそろそろ)会場を決める必要があるらしいです。
東京でしか大規模イベントをやったことがない人には伝わりにくいのですが、 地方都市で数百人規模のパーティは、会場もケータリングも選択肢が少ないのです。
「広島国際会議場を予約してあるなら問題ないのでは」と思うかもしれません。
今回の会場で、セッションやスポンサーブースとして使われている部屋を、 パーティ会場に転換して料理を用意してもらうために4時間かかる可能性がある、と聞いています。
会場は確保しているものの、パーティ会場の判断によって「どの時間帯にどの部屋が使えなくなるか」が変わるのです。
メイン会場の近くでパーティ会場を探すとしても、 500人の規模だと会場の選択肢が4カ所くらいしかなく、会場の予約が埋まるのはもうそろそろだという話です。
例えば、カンファレンス参加者の定員が1000人であっても、パーティの定員は500人にする、といったチケット設計も関わってきます。
東京開催と比べると、広島開催の「1型の決断」は意外に早いタイミングでやってきます。
他にはもっと恵まれている地域があるかも知れませんが。。
いまは座長が決める
ここで書いたことは、主催メンバーを早く組織化して任せたい、と思っているわけではありません。
主催メンバーの募集開始が遅すぎたとも思っていません。
座長が私の責任で、予算案をにらみながら、判断するつもりです。
とはいえ、今月中に開催する主催メンバー勉強会で、関連する発言や提案があれば、尊重します。
公平性と多様性に向き合う
パーティの話をしたので、別の論点を提供させてください。
PyCon JP 2024 で主催メンバーとして仕事をしていたとき、 参加者から「コーヒーが飲めない人がもらえる飲み物はありますか」という問い合わせがあったと聞きました。
実際にはどのように対応されたのか把握できていませんが、例えば以下の選択肢があるとします。
- 選択肢 1: スピーカー用に用意したペットボトルの水など、その場で判断して、なにか探して提供する
- 選択肢 2: 有料ではあるが、自動販売機の場所を案内して、ソフトドリンクを購入していただく
こんなことは簡単に判断できると思っていますか?
選択肢 1 は、提供できるかできないか確実ではありません。 また、そういう判断ができる人がいるかどうかも、わかりません。 適切かどうかはともかく、これは「2型の判断」ですね。ペットボトルが1本減っても、どこかで補充できるでしょう。
選択肢 2 は、責任を持てる対応だと思う人もいるでしょう。しかし、私はモヤモヤします。
コーヒーを飲めない参加者が、こんなふうに考えるかも知れません。
「コーヒーブースで提供されるコーヒーは、このイベントのコストに含まれている。 私はコーヒーを飲むことができない。私が飲めるものは、自分の費用で購入しなければならない。 これは不公平だ。」
こういう議論に関心がある人は「主催メンバー勉強会」のグループディスカッションで発言してほしいです。
まずは「個人の直感に頼らない。わからないことは座長に判断させればよい」と思ってください。
私には私の思いがあり、個人情報保護法や障害者差別解消法などの知見もあり、頼れる人も身近にいるので、責任を持って判断をします。
取り組んできたことの意味を考える
PyCon JP の行動規範は、差別やハラスメントを禁止しています。
また、これまで PyCon JP では、ベジタリアンやハラールのランチ対応、託児サービスの提供などに取り組んできました。
これらを TODO リストとして引き継ぐだけでなく、 なぜ取り組んできたのか、丁寧に考えてはどうでしょうか。
テクノロジーが、排除されてきた人を減らすために役立ってきたこと。
オープンソースソフトウェアとそのコミュニティが、さまざまな人を排除せずに参加を保障してきたから、発展できたこと。
もしかすると「コーヒーを提供するときに、コーヒーを飲めない人のことを考える」という視点が生まれるかも知れません。
あるいは「公平性と多様性のためにできること」を、主催メンバーひとりひとりが、現場で自分の判断で行えるかも知れません。
喫煙ブースと受動喫煙対策
多様性や権利の文脈で話題になりやすいのは喫煙者、あるいは受動喫煙を避けたい人への対応です。
私は YAPC::Hiroshima 2024 直前に個人ブログで 広島国際会議場の受動喫煙対策 という記事を書きました。
この内容を繰り返すと、施設は喫煙ブースを作ったが、現在は使われていない、という状況です。
この状況を「不便」と考える人、「安全」と考える人、「十分に安全とは言えない」と考える人、さまざまであることを認識していますが、状況を把握して伝えることが出発点です。
会場を選択した時点で、参加したいけどできない人を作ってしまった可能性がある。
このようなことを、私はときどき考え、排除してしまった人に対して申し訳ないと思いつつ、せめて説明責任は果たすつもりです。
先送りにしない
主催メンバーのみなさんには、どう決断していいのか、自分で決断していいのか、誰に決断をしてもらえばいいのか、わからない、ということがあると思います。
私ができるだけ、事前に言語化していくつもりです。
ですが、私の準備が足りない場合は、以下の選択肢で考えてください。
- 明らかに2型の判断である場合、自分で判断し、報告する
- そうでない場合は、依頼者や座長に戻す
依頼者から判断を戻された人(チームリーダーや座長)の選択肢も整理しておきます。
- 「1型なのか2型なのか」を判断する
- 1型の場合「誰がどういうタイミングで判断するか」を判断できる人に戻す(最後は座長に行き着く)
- 2型の場合、担当者に判断してよいと伝える
- 2型の場合、判断を手伝うが、次回からは自分で判断していいと伝える
こうした考え方を整理したのは「判断が遅いために台無しになる」という結果を避けたいからです。
PyCon JP 2025 主催メンバーの活動をよりよいものにするために、みなさんの意見やアイデアをぜひ共有してください。
YouTube 動画 「桜井政博のゲーム作るには」から 決断を先送りにするな も紹介しておきます。
Decision-Making and Inclusivity in PyCon JP 2025
This article reflects on the thoughts of the Chair of PyCon JP 2025 regarding decision-making and inclusivity. Two organizing member study sessions are scheduled for December 17 and 20 to provide opportunities for discussions and collaboration.
Decisions are categorized into two types: “Type 1 decisions,” which are significant, irreversible, and require careful deliberation, and “Type 2 decisions,” which are reversible and can be made quickly. For PyCon JP 2025, several Type 1 decisions—such as the venue, dates, and chairperson—have already been finalized.
The article emphasizes the importance of ensuring fairness and diversity in event operations. Examples include providing inclusive food and drink options, implementing the event’s code of conduct, and continuing efforts like vegetarian meal options and childcare services. These measures are not just tasks to complete but reflect the deeper value of inclusivity. They are rooted in the history of technology and open-source communities, which have thrived by reducing exclusion and encouraging diverse participation.
Guidelines for decision-making are also provided to assist organizing members. The key is to determine whether a decision is Type 1 or Type 2. Type 2 decisions should be made independently, with reports to the team, while Type 1 decisions should ultimately be handled by the Chair. This framework aims to prevent delays and ensure smooth operations.
PyCon JP 2025 aspires to create a fair and diverse event through collaboration and thoughtful decision-making, fostering a positive and inclusive experience for all participants.