座長業務におけるAI活用について
PyCon JP 2025 座長 @nishimotz が個人として公開する日報です。
PyCon JP 2025 は9月26日〜28日に広島国際会議場で開催されます。最終日は開発スプリントです。
主催メンバーを募集しています。主催メンバー申し込みフォームからご応募ください。
はじめに
開催100日前が迫っているいま、あらためて思うのは2024年11月からはじめた「言語化」の重要性です。
私たちは日々、AIツールを積極的に活用することが当たり前になりました。座長である私は、日々の業務だけでなく座長としてのタスクにも ChatGPT, Copilot, Gemini, Cline, Devin, Claude などのツールと協働しています。この記事は Claude Code と一緒に書いています。
私は新しいことがやりたくて、従来の引き継ぎドキュメントとは異なるアプローチを試すことにしました。過去の手順書をそのまま踏襲するのではなく、異なる地域や新しいメンバーでも理念を理解して柔軟に組織を適応できる方法を模索したいと考えています。
組織づくりでは、まず「なぜやるのか」(理念・目的)を明確にし、次に「どうやってやるのか」(方法・プロセス)を決め、最後に「何をやるのか」(具体的なタスク)を定める順番が大切です。
- なぜ:ミッション、ビジョン、理念
- どうやって:方法論、プロセス、行動規範
- 何を:具体的なタスク、手順書、チェックリスト
この順序で文書化することで、新しいチームや異なる地域(広島開催など)でも、理念を理解した上で状況に応じて柔軟に組織を適応させることができます。書かれたものが次に書くべきもののルールになり、ひとりから始まった活動が数十人のチームになります。これはマネジメントの基本であり、AI時代のソフトウェア開発でも新しい常識になりつつあります。
「AIツールをたくさん使っているから座長ができる」のではありません。大切なのは、課題を見つけ、解決方法を考え、チームと協力することです。AIはその過程を支援する道具に過ぎません。
今後、主催メンバーにとって、AI活用は重要なスキルになると考えています。しかし、技術的な知識よりも、「問を見つける力」や「チームワーク」の方がはるかに重要です。
AI活用の理念・哲学
なぜAI活用を推進するのか
- 効率化: 定型的な作業や文書作成の時間を大幅に短縮
- 品質向上: 人間だけでは見落としがちな観点からの改善提案
- 学習効果: AIとの対話を通じて新しい視点や知識を獲得
- 透明性: 作業プロセスを記録し、後から検証可能にする
スピードと品質の両立
仕事にはスピードと品質の両方が求められることがあります。AIは単にスピードを上げるだけでなく、品質においても人間の助けとなります。
例えば、この座長の日報の英語版作成も、以前からAIの助けを借りています。完全ではないことは承知していますが、国際的なコミュニティとのコミュニケーションを迅速に行うためには、AIとの協働が不可欠です。
重要なのは、AIに完璧さを求めるのではなく、人間とAIが協働することで、より良い結果を短時間で得ることです。
文章作成に対する新しい関係性
私は文章を書くことは好きなのですが、本当は単にタイピングがしたいだけであり、本当はプロンプトだけを打っていれば満足できる人間なのかも知れません。書きたいことを雑に指示するだけで、読みやすいテキストが目の前に現れる。これは日本語ワープロというものに出会った数十年前の感覚がよみがえる体験です。
私はAIが提案したものが「私が書きたくないもの」であれば却下します。私が書きたいものであれば使います。それだけのことです。もちろん、凡庸な言葉も生み出されますが、それは、自分が書いても同じことです。自分が求める言葉を紡ぐために、手段は問いません。
書かれた文章の推敲は、また別の話です。あらゆる視点で自分の書いた文章を読み返し、問題を探し、改善する。これはAIがなくてもできたかも知れませんが、苦痛と孤独から解放されつつあります。プログラミングもそうかもしれません。
問を見つける力
仕事に必要なのは答えではなく「問である」と、私は座長業で痛感しています。
例えば、この記事を書いている最中に「この記事は未経験者が座長をやってみたいと思う内容だろうか」という問が浮かびました。その問をAI(Claude)に投げかけたところ、記事の課題が明確になり、改善の方向性が見えてきました。
AIは優秀な回答者ですが、適切な質問を設定するのは人間の役割です。座長業務では正解のない課題に日々向き合いますが、その中で「何が本当の問題なのか」を見つける力こそが重要だと実感しています。AIとの協働においても、この「問を見つける力」が協働の質を大きく左右します。
AIの可能性と限界を探る実験の場
私にとって座長業は、AIに何ができて、何が苦手なのかを試す場でもあります。
例えば、移動中にSlackからDevinに命令して、公開済みの記事の誤りを訂正させたことがあります。このような機動的な対応は、従来では考えられなかった新しい働き方です。
一方で、AIが苦手とする領域や、人間の判断が必要な場面も日々発見しています。このような試行錯誤の経験も、2026年チームにとって貴重な知見になるでしょう。
具体的な活用事例
座長業務での具体的な活用例
実際の座長業務では、この座長の日報の更新にDevinやClaude Codeを活用しています。具体的には、Jekyll サイトの更新作業やマークダウンファイルの整理などです。
エディタではVisual Studio CodeのCopilotを使いますが、プログラミング以外の作業では制限があることもあります。Cursorは当初は多用途に活用していましたが、最近は他のAIツールの補助的な立ち位置になっています。
組織・チーム運営での活用
国際的なコミュニケーション支援
私はZoomでオンライン会議を行うことが多いのですが、日本語が苦手な主催メンバーになんとか配慮したいと思っています。現在はZoomの翻訳アドオンを契約しており、私が持っているライセンスを使えば、日本語の発言を英語字幕で確認できるはずです。
精度は十分かどうかはわからませんが、英語対応はイベント当日まで、ずっとチャレンジが続くでしょうし、AIの支援も期待できるでしょう。国際的なコミュニティイベントとして、言語の壁を下げる努力を続けていきます。
議事録作成の変革
オンライン会議の議事録も重要な課題です。我々は、議論をしながら共同編集で議事録を書く文化があります。だが、これを補完する目的で、Zoomの文字起こしファイルをAIに渡して、比較的詳細な議事録を作れることがわかり、個人的には積極的に使いたいと考えています。
議事録担当者が「書く人」ではなくて「確認して訂正する人」になりつつあります。これにより、会議中により議論に集中でき、かつより正確で詳細な記録を残すことができるようになりました。
主催メンバーへの期待
現在募集中の主催メンバーの皆さんにも、以下のようなAI活用を期待しています:
- 初心者歓迎: AIツールを使ったことがない方も大歓迎です。ChatGPTで文章を書いたり、Google翻訳で英語を確認したり、そんな小さなことから始めれば十分です
- 完璧を求めない: 私も毎日試行錯誤しています。失敗も含めて、一緒に学んでいけば良いのです
- 創造的な協働: AIに丸投げするのではなく、「この問題をどう解決したいか」という問を一緒に考えることから始めましょう
- 知識の共有: 「こんなことができた」「これは上手くいかなかった」を気軽にチーム内で共有し、全体のレベルアップを図る
課題と配慮事項
コストへの配慮
私はひとりで会社をやっているので、金額にもよりますが有料サービスに抵抗はありません。しかし、お金で解決する働き方が、特に経済的に余裕のない主催メンバーには真似しにくいだろうと思います。
そのため、無料で利用できるツールや、学生・オープンソース向けの優遇プランなども含めて、多様な選択肢を提案していきたいと考えています。AIツールの活用は、必ずしも高額な投資を必要とするものではありません。
プライバシーとセキュリティへの配慮
AI利用ではプライバシーやセキュリティの注意事項があります。個人情報や機密情報をAIサービスに送信しない、利用規約をよく読むなど、基本的な注意を払った上で適切に使ってほしいと思います。これはエンジニアとして一般的に持つべき立ち位置だと考えています。
今後の展望・引き継ぎ
2026年への引き継ぎ
このような AI 活用の経験は、PyCon JP 2026 の主催チームにとって貴重な財産になるはずです。どのような場面でAIが役立ったか、どのような使い方が効果的だったかを記録し、ノウハウとして蓄積していきます。
今後の展望
AIツールは日々進化しており、私たちも新しい可能性を探り続けています。主催メンバーの皆さんと一緒に、PyCon JP 2025を通じてAI時代の新しいイベント運営のあり方を模索していきたいと思います。
次の座長候補へ
この記事を読んで「座長をやってみたい」と思った方がいるかもしれません。座長になりたいかどうかを決めるのは、結局のところ能力よりも熱意です。「やりたい」という衝動はAIには持つことができません。
私も最初は座長未経験でした。AIツールの使い方も手探りでした。でも「PyCon JPを成功させたい」「Pythonコミュニティに貢献したい」という気持ちがあれば、技術的なスキルや経験の不足は、AIとチームメンバーが補ってくれます。
大切なのは、完璧である必要はないということです。問題が発生したら、その時に考えればいい。AIと一緒に解決策を探せばいい。チームと協力すればいい。
「やってみたい」という気持ちがあるなら、それだけで十分な資格があります。
主催メンバーを大切にする座長の心得
未来の座長に最も伝えたいのは、主催メンバーが主役であるということです。座長は「魚の釣り方を教える人」であり、実際に魚を釣るのは主催メンバーです。
しかし、私はときどき自分で魚を釣ってしまったり、釣り竿を抱えて立ち往生してしまうこともあります。そんな失敗もあります。いまもそうです。完璧な座長ではありませんが、それでも主催メンバーが主役であることを忘れずにいたいと思っています。
主催メンバーの活躍の場を作り、彼らがやりがいを感じられるようにすることが座長の重要な役割です。例えば、今年実施したPythonチュートリアル合宿は、参加者にとって非常に有意義な体験となりました。金銭的に報いることは難しくても、「参加してよかった」と思ってもらえる機会を積極的に作ることが大切です。
同時に、やむを得ず活動できなくなった人や休止している人に対しては、無理をさせたり冷たく対応したりしてはいけません。人生には様々な事情があり、ボランティア活動への関わり方も多様であることを理解し、尊重する姿勢が必要です。
主催メンバーが楽しんでいる組織には、自然と人が集まります。座長は、メンバー一人ひとりの幸福を優先し、無理のない範囲で自然に参加できる環境を整えることが求められます。
AI活用の観点から言えば、私は人と関わることの難しさや深さを知るために、AIと対話し続けて学んでいます。AIとの対話を通じて、人間同士のコミュニケーションの複雑さや、チームワークの本質について新たな気づきを得ることができます。これもまた、主催メンバーとより良い関係を築くための重要な学習プロセスです。
更新履歴
- 2025-06-15: 初版公開