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しくみで不安を乗り越える

2025年08月26日

PyCon JP 2025 座長 @nishimotz が個人として公開する日報です。

English version

開催まであと31日となりました。

準備も佳境に入り、まだ十分に活躍できていない人がいる現実、いくつかの課題はこのままでは間に合わないという焦りを感じて、座長チームが動き出しています。

だが、私は思います。もっと丁寧に「全員に届く言葉」をみんなと共有して、いまこそ高い視座で思いを伝えたい。

答えは、ひとりひとりに合わせて探すしかない——

そんな想いから、今日は「しくみで不安を乗り越える」をテーマに書きます。最近強く感じていることを主催メンバーの皆さんと共有します。

しくみで不安を乗り越える

開催1ヶ月前、さまざまな不安が頭をよぎります。しかし、不安には種類があり、それぞれに適した対処法があることに気づきました。

私が考えた不安コントロールのチーム原則を紹介します。

不安の種類別アプローチ

不安が小さいタスク

自走でシンプルに進めてよい

失敗が不安なタスク

記録・チケット・レビューで丁寧に扱う

遅延が不安なタスク

進捗や不安を共有し、チームで安心をつくる

記録が残らないと不安なタスク

ドキュメントやチケットに残す

共感型と秩序型の両立

この不安への対処法を考える上で、チームには異なるアプローチスタイルがあることに気づきました。私たちの準備の進め方には、大きく分けて二つのスタイルがあります。

共感型のアプローチ

人の気持ちや雰囲気を大事にして動く

秩序型のアプローチ

タスクや期日を明確にして動く

両方が必要な理由

どちらも欠かせません。 「共感で不安を言葉にし、秩序で不安を形にする」ことで、安心して本番を迎えられます。

リーダー的な人へのお願い

リーダーやサブリーダーは、共感と秩序の両立を特に意識してほしいと思います。

この考察は、Pythonコミュニティのあり方、厳格なプラクティスと包摂性、そんなことに私が学びながら考えたことです。

先日 組織を導くのは共感か秩序か? という記事でも触れたように、PEPという厳格なプロセスと包摂的なコミュニティ文化の両立、Code of Conductによる秩序と共感の融合——これらがPythonコミュニティの強さの源泉だと感じています。

共感寄りの人へ

感謝や励ましに加えて、期日や優先順位も言葉にして伝えてください。

秩序寄りの人へ

ルールや期日の明確さに加えて、一言の共感や感謝を添えてください。

大切なこと

両立できれば理想ですが、苦手な部分は仲間に頼って大丈夫です。

不安を数値化する

認知行動療法の世界では、SUDs(主観的不快感尺度:Subjective Units of Distress Scale)という、不安を0〜100で数値化して扱う方法があります。

0〜100点で「いまどのくらい不安か」を自己評価する方法です。

例:

暗黙的な「なんとなく不安」を可視化できます。

私たちも大げさにやる必要はありませんが、「これは不安度80だからレビューしたい」など、感覚を数値で表すと、共感型にも秩序型にも伝わりやすくなります。

数値化することで:

ひとりひとりに合わせたアプローチ

共感と秩序の両立を目指す上で、さらに重要なのは個人の多様性に配慮することです。答えはひとりひとりに合わせて探すしかない——そう感じる理由は、私たちが多様な背景と状況を持っているからです。

経験豊富な人へ

不安の芽を早めに見つけて、言葉にして共有してください。チーム全体が助かります。

経験が少ない人へ

「なんとなく心配」と出すだけで十分です。それを仕組みに落とすのは周りが支えます。

時間を多く割ける人へ

自分のタスクだけでなく、他の人の不安を拾い、仕組みに落とす役割も担えます。

時間が限られている人へ

自分のタスクに集中しつつ、「ここが気になる」と一言残すだけで貢献になります。

広島にいる人へ

現地の感覚をチームに伝えてください。写真や雰囲気の共有だけでも安心につながります。

リモートで関わる人へ

記録や質問で、見えない部分を補ってください。それがチームの助けになります。

不安を感じていない人へ

もし今、特に不安を感じていないなら、それは素晴らしいことです。しかし、もしよろしければ:

座長として

この考察は、和田卓人(t_wada)さんの広島での講演で耳にした「不安の輪郭」という表現からインスパイアされました。正確な出典は確認できていませんが、TDDの「不安をテストにする」という思想を表すものとして、ここで引用させていただきます。

t_wadaさんの説明で印象深かったのは、「テストはどんな場合にどんな粒度で書くべきか。書きすぎるのも、書かなさすぎるのもよくない。ちょうどよいの定義の根拠が不安だ」という考え方でした。少なくとも私はそう記憶しています。

テスト駆動開発では、まず不安や疑問を明確にし、それをテストとして表現することで、安心してリファクタリングや機能追加を進められます。同じように、チーム運営においても不安の輪郭をなぞり、それを仕組みに落とし込むことで、安心して本番に向かえるのではないかと考えました。

厳格なプラクティスは、人の気持ちや感情を起点にすることで、よりうまく機能します。そんな思いを込めて、今回の原則を考えています。

すべてをきっちりやる必要はありません。 不安の種類に合わせて進め方を変えることで、共感型も秩序型も、それぞれの強みが生きます。

リーダー的な人も、経験豊富な人も、経験の少ない人も、時間の使い方や関わり方が違う人も──

その多様さが合わさって、私たちは安心して本番を迎えられると信じています。

答えはひとりひとりに合わせて探すしかない。 しかし、だからこそ私たちは強いチームになれるのだと思います。

まず一歩から

この記事を読んでくださった主催メンバーの皆さんに、小さな提案があります。

まず今週は、自分が感じている不安を一つだけ言葉にしてみませんか。「なんとなく心配」でも「ちょっと気になる」でも構いません。

他の人がどのような不安や心配事を持っているかを知りたい場合は、私が作成した「Food for Thought - 答えのないFAQ」をご覧ください。これは主催メンバーが参加者の皆さんから受ける可能性のある質問を想定してまとめたものですが、同時に、多くの人が持つ可能性のある不安や心配事のリストとしても読めるはずです。

もしよろしければ、SUDsスケールも試してみてください。「この件は不安度30くらい」「あれは70だから早めに相談したい」など、数値で表現してみると、自分の気持ちがより明確になり、チームにも伝わりやすくなります。

それが、チーム全体の安心につながる第一歩になると信じています。

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