座長は仕事を可視化して、メンバーにはぎ取ってもらうのが仕事
これは PyCon JP 2025 座長 (@nishimotz) の個人的な日報です。
仕事の可視化と委譲の重要性
座長として日々感じているのは、自分の役割は「仕事を作ること」ではなく「仕事を見えるようにすること」だということです。そして、見えるようになった仕事を、適切なメンバーに「はぎ取って」もらうことが、組織運営の核心だと考えています。
なぜ「はぎ取る」という表現を使うのか
「委譲する」「お願いする」という言葉ではなく、あえて「はぎ取る」という表現を使うのには理由があります。従来の組織運営では、リーダーが仕事を抱え込み、部下に「やってもらう」という上下関係が前提となりがちです。
しかし、PyCon JP 2025のような volunteer-driven な組織では、メンバーが主体的に「この仕事は自分がやりたい」「これは自分の得意分野だ」と感じて、積極的に仕事を取りに来てもらうことが理想的です。
仕事の可視化の具体的な方法
1. タスクの分解と明文化
大きな仕事を小さな具体的なタスクに分解し、以下の要素を明確にします:
- 何を:具体的な成果物や目標
- いつまでに:明確な期限
- どのように:手順や方法の概要
- なぜ:そのタスクの意義や背景
2. 透明性の確保
すべてのタスクを公開し、進捗状況を共有します。これにより:
- メンバーが全体像を把握できる
- 自分の興味や能力に合ったタスクを見つけられる
- 重複や漏れを防げる
3. 参入障壁の低減
新しいメンバーでも取り組みやすいよう:
- 必要な前提知識を明記
- 参考資料やツールの情報を提供
- 質問しやすい環境を整備
実際の運用例
PyCon JP 2025 の組織運営では、以下のような形で実践しています:
チーム別タスク文書の作成
各チーム(座長、プログラム、広報、スポンサー、会場、参加者管理)のタスクを詳細に文書化し、公開しています。これにより、メンバーは自分の興味や能力に応じてタスクを選択できます。
Working Out Loud の実践
進行中の作業を積極的に共有し、他のメンバーが参加しやすい環境を作っています。「こんなことを考えています」「ここで困っています」という情報を公開することで、協力者が現れやすくなります。
意思決定の透明化
Type 1(不可逆的)とType 2(可逆的)の意思決定を区別し、Type 2 の決定はメンバーに委ねることで、主体性を促進しています。
メンバーに「はぎ取って」もらうための工夫
1. 魅力的な仕事の提示
単なる作業ではなく、学びや成長につながる機会として仕事を提示します:
- 新しいスキルを身につけられる
- 業界のネットワークを広げられる
- 社会貢献につながる
2. 適切なサポート体制
仕事を引き受けたメンバーが成功できるよう:
- 必要なリソースの提供
- 定期的なフォローアップ
- 困った時の相談窓口の明確化
3. 成果の認知と感謝
メンバーの貢献を適切に評価し、公開の場で感謝を表明します。これにより、他のメンバーも参加したいと思えるような好循環を生み出しています。
座長としての学び
この「可視化→はぎ取り」のプロセスを通じて、座長としても多くを学んでいます:
- 委譲の技術:どのように仕事を分解し、説明すれば理解してもらえるか
- 信頼関係の構築:メンバーが安心して仕事を引き受けられる環境作り
- 組織の成長:個人の成長が組織全体の力になるプロセス
「自分でやった方が早い」という誘惑との戦い
座長として最も難しいのは、「自分がやった方が早くても我慢する」ことです。経験や知識があるからこそ、つい自分で全部やってしまいたくなります。しかし、それではスケールしません。
他の人が手を動かすことで:
- 新しいアイディア:自分では思いつかない発想が生まれる
- 多様な視点:異なる背景を持つメンバーからの気づき
- 組織の成長:メンバーのスキルアップと主体性の向上
- 持続可能性:座長一人に依存しない組織運営
短期的には効率が下がっても、長期的には組織全体の力が向上し、より良い成果につながります。
AIエージェントとの協業との類似性
興味深いことに、この「仕事の可視化と委譲」の原理は、AIエージェントとの協業においても同様に適用されます。人間がすべてをコントロールしようとせず、AIに適切にタスクを委譲することで:
- 予想外のアプローチ:人間では思いつかない解決方法の発見
- 効率的な処理:AIの得意分野を活かした作業の最適化
- 新しい視点:データ分析や パターン認識による洞察
- スケーラビリティ:人間の能力を超えた処理能力の活用
PyCon JP 2025の組織運営でも、AIツールを活用しながら、人間とAIの適切な役割分担を模索しています。
今後の課題
現在も改善を続けている点:
- タスクの粒度調整:大きすぎず小さすぎない適切なサイズの見極め
- スキルマッチング:メンバーの能力と興味に最適なタスクの提案
- フィードバックループ:完了したタスクから次の改善につなげる仕組み
現在の状況:空気を暖め続ける
6月末、私たちは困難を抱えつつも、チームが私の仕事をはぎ取ろうとする状況にこぎ着けました。私は言葉を控えて、行動を控えて、ただただ大きな気球がふわりと浮かび上がることを願いながら、空気を暖め続けています。
座長としての役割は、指示を出すことでも、すべてを管理することでもありません。チームメンバーが主体的に動き出すための「空気を暖める」ことなのだと、この6月末の経験を通じて改めて実感しています。
メンバーたちが自ら仕事を見つけ、積極的に取り組もうとする姿勢が生まれてきたとき、座長は一歩下がって、その動きを支える存在になります。それこそが、持続可能で創造的な組織運営の本質なのかもしれません。
PyCon JP 2025 について
PyCon JP 2025 は、2025年9月26日(金)・27日(土)に広島国際会議場で開催される Python カンファレンスです。テーマは “pieces of python, coming together” です。
現在、主催メンバーを募集しています。プログラム、広報、スポンサー、会場、参加者管理など、様々な分野でご協力いただける方をお待ちしています。経験は問いません。一緒に素晴らしいカンファレンスを作り上げましょう。
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更新履歴
- 2025-06-25: 初版公開