主催メンバーの多様性に合わせた活動方法を改めて提案
PyCon JP 2025 座長 @nishimotz が個人として公開する日報です。
PyCon JP 2025 は9月26日〜28日に広島国際会議場で開催されます。最終日は開発スプリントです。
公式サイト 2025.pycon.jp が公開されました!
はじめに
以前の記事「座長は仕事を可視化して、メンバーにはぎ取ってもらうのが仕事」では、理想的な委譲のあり方について書きました。メンバーが主体的に仕事を「はぎ取る」という理想的なモデルを描きました。
しかし、現実の組織運営では、すべての主催メンバーがそのようにプロアクティブに動けるわけではありません。主催メンバー勉強会を構想するで触れた「2-6-2の法則」は、チーム活動の現実を表しています:
- 2割:積極的に行動し、自ら仕事を見つけて取り組むメンバー
- 6割:状況に応じて行動し、指示があれば確実にこなすメンバー
- 2割:慎重に行動し、サポートがあれば力を発揮するメンバー
この記事では、それぞれの立場の方に向けて、より現実的な委譲システムについて説明します。あなたの立場に応じたセクションをお読みください。
積極的メンバー(2割)の皆さんへ
あなたは組織の推進力です。座長が可視化した仕事を積極的に「はぎ取る」役割を担っています。
あなたの役割と責任
主要な役割:
- 座長が可視化した仕事を積極的に「はぎ取る」
- チーム内での仕事の分解と再配分をリードする
- 他のメンバーが参加しやすい環境を作る
段階的委譲システムでの位置づけ: あなたは第1段階の委譲を担う重要な存在です。座長から直接すべてのメンバーに仕事を委譲するのは現実的ではないため、まずあなたが座長から仕事を「引き剥がし」、それをチーム内で適切に配分する役割を担います。
注意すべきポイント
- 「自分でやった方が早い」誘惑との戦い:これは座長の課題でもありますが、積極的メンバーにも共通する課題です
- 他のメンバーのペースを尊重:押し付けにならないよう配慮が必要
- Working Out Loudの実践:作業プロセスを透明化し、協力者が現れやすくする
具体的なアクション
タスクの分解と配分:
- 大きなタスクを小さく分解して、他のメンバーが取り組みやすくする
- メンバーのスキルレベルに合わせた適切なサイズでの分解
- 明確な指示(何を、いつまでに、どのように)の提供
コミュニケーションの実践:
- 定期的に進捗を共有し、協力者を募る
- 過剰と思えるくらいのコミュニケーションをで述べたWorking Out Loudの実践
- 困っているメンバーがいたら積極的にサポートを申し出る
時間制約下での意思決定:
- 迅速決断型のタスク(技術的実装、日常運営、緊急対応)は積極的に判断
- 全員納得型のタスク(ブランディング、参加者体験、組織価値観)は慎重に合意形成を図る
成長と学習の機会
- 他のメンバーの取り組みから学ぶ機会を活用
- リーダーシップスキルの向上機会を積極的に求める
- 成功事例と失敗事例を蓄積し、経験を共有する
状況対応メンバー(6割)の皆さんへ
あなたは組織の安定した基盤です。指示があれば確実にこなす能力を持っています。
あなたの強みと価値
核となる強み:
- 指示された仕事を確実にこなす能力
- 状況に応じて柔軟に対応できる適応力
- チームの安定性を支える重要な存在
段階的委譲システムでの位置づけ: あなたは第2段階の委譲を受ける中心的存在です。リーダーやサブリーダーから適切に仕事を割り当てられ、明確な指示のもとで確実に成果を出す役割を担います。
効果的な参加方法
指示の受け方:
- リーダーやサブリーダーから明確な指示を受ける
- 不明な点があれば遠慮なく質問する
- 何を、いつまでに、どのように行うかを具体的に確認する
サポート体制の活用:
- 困ったときに相談できる環境を積極的に利用
- 1対1の対話機会を活用して個別の状況や課題を共有
- ペアワークや経験豊富なメンバーとの協働を求める
自分のペースでの貢献:
- 無理をせず、着実に貢献する
- 自分の専門分野や興味のある領域で力を発揮
- 段階的に責任を増やしていく
成長のヒント
主体性の発揮:
- 小さな提案から始めて、徐々に主体性を発揮する
- 得意分野では積極的に意見を述べる
- 他のメンバーの取り組みを観察し、学習する
コミュニケーションの改善:
- Working Out Loudの実践で透明性を向上
- 問題や課題の兆候をチーム全体で共有
- 他のメンバーの取り組みから学ぶ機会を活用
支援を受ける方法
早期発見システムの活用: 座長チームは各メンバーの参加度や貢献度を定期的に確認しています。モチベーション低下や孤立の兆候があれば早期に発見し、以下の支援を提供します:
- 直接対話:座長やリーダーからの個別アプローチ
- 環境調整:チーム配置の見直しや役割の再定義
- 追加サポート:メンタリングやペアワークの提供
慎重メンバー(2割)の皆さんへ
あなたの慎重さは組織にとって貴重な資質です。サポートがあれば大きな力を発揮できます。
あなたの価値と貢献
独特の価値:
- リスクを事前に発見する洞察力
- 質の高い成果物を作り上げる丁寧さ
- チームの決定に深みを与える慎重な視点
段階的委譲システムでの位置づけ: あなたは第3段階の個別サポートと成長支援を受ける対象です。より丁寧なサポートを通じて、段階的に参加し、小さな成功体験から始めることができます。
参加しやすい方法
段階的な参加:
- ペアワークや小グループでの活動から始める
- 自分の専門分野や興味のある領域で貢献する
- 段階的に責任を増やしていく
個別サポートの活用:
- 1対1の対話:個別の状況や課題を理解してもらう
- 段階的な参加:小さな成功体験から始める
- ペアワーク:経験豊富なメンバーとの協働
サポートの受け方
早期相談の重要性:
- 困ったときは早めにリーダーや座長チームに相談する
- 1対1の対話機会を積極的に活用する
- 小さな成功体験を積み重ねる
原因別の支援策: 意欲があるのにうまく活動できない場合、以下の原因と支援策があります:
スキルの問題:
- 研修や勉強会の提供
- 必要な技術や知識の習得支援
環境の問題:
- 柔軟な参加形態の検討
- 時間的制約や物理的制約への配慮
コミュニケーションの問題:
- 1対1の対話機会の増加
- チーム内での関係性や情報共有の改善
役割の問題:
- 適性に合った仕事の再配分
- 役割の再定義
組織からの見守り
座長チームは現在、主催メンバー一人ひとりがうまく活動できているかどうかに関心を持って全体を見守っています:
早期発見システム:
- 活動状況の把握:参加度や貢献度の定期的確認
- 課題の兆候:モチベーション低下や孤立の早期発見
- コミュニケーションパターン:Slackでの発言頻度や内容の変化
介入とサポート:
- 直接対話:座長やリーダーからの個別アプローチ
- 環境調整:チーム配置の見直しや役割の再定義
- 追加サポート:メンタリングやペアワークの提供
リーダー・サブリーダーの皆さんへ
あなたは段階的委譲システムの要です。人と人、チームとチームをつなぎ、人の活動を支援する重要な役割を担っています。
あなたの役割と期待
基本的な役割: 以前の記事で述べたように、リーダー・サブリーダーは「連絡係」的な役割で、交替も可能です。ただし、ここで重要なのは、自分が手を動かす人である必要はないが、人と人、チームとチームをつなぎ、人の活動を支援するという役割です。
以下を期待したいです:
- 座長から仕事を「引き剥がし」、チーム内で適切に配分する
- メンバーの特性を理解し、それぞれに適した仕事を割り当てる
- 組織の停滞を防ぎ、チームの自走を促進する
段階的委譲システムでの責任
第1段階:座長からの委譲受け:
- 座長が可視化した仕事を積極的に取りに行く
- チーム内での仕事の分解と再配分
- メンバーの特性に応じた適切な仕事の割り当て
第2段階:チームメンバーへの委譲: 状況対応メンバー(6割)に対して:
- 明確な指示:何を、いつまでに、どのように行うかを具体的に伝える
- 適切なサイズ:メンバーのスキルレベルに合わせたタスクの分解
- サポート体制:困ったときに相談できる環境の整備
第3段階:個別サポートの提供: 慎重メンバー(2割)に対して:
- 1対1の対話:個別の状況や課題を理解する
- 段階的な参加:小さな成功体験から始める
- ペアワーク:経験豊富なメンバーとの協働の機会提供
メンバー支援のポイント
積極的メンバー(2割)への対応:
- 大きな責任を任せ、成長機会を提供
- 「自分でやった方が早い」誘惑に負けないよう委譲を促進
- Working Out Loudの実践を支援
状況対応メンバー(6割)への対応:
- 明確な指示と適切なサポートを提供
- 定期的な進捗確認とフィードバック
- 段階的な主体性発揮の機会を創出
慎重メンバー(2割)への対応:
- 個別対話と段階的な参加機会を提供
- 小さな成功体験の積み重ねを支援
- 専門分野や興味のある領域での貢献機会を創出
必要なスキルと支援体制
必要なスキル:
- 委譲の技術:適切なタスクの分解と説明
- メンバー理解:個々の特性や状況の把握
- コミュニケーション:指示、相談、フィードバックの技術
- 問題解決:課題の早期発見と対応
支援体制:
- 定期的なミーティング:座長とリーダー間の情報共有
- 経験の共有:成功事例や失敗事例の蓄積
- 継続的な学習:リーダーシップスキルの向上機会
意思決定の使い分け
時間制約下での効率的な意思決定のため、以下の使い分けを行ってください:
迅速決断型:
- 技術的な実装方法
- 日常的な運営判断
- 緊急対応が必要な事項
全員納得型:
- ブランディングに関わる重要な決定(ロゴデザインなど)
- 参加者体験に大きく影響する方針
- 組織の価値観に関わる判断
ロゴ決定プロセスの事例: 最近のロゴ決定では、時間をかけて担当チームを超えた議論が行われました:
- 広範囲な意見収集:複数チームからの視点を集約
- 十分な検討時間:急がず、質の高い議論を重視
- 合意形成プロセス:全員が納得できる結論を目指す
組織停滞防止の責任
「わからないから何もしない」状況への対処: 全員が「わからないから何もしない」という状況では、ボランティア組織で良いイベントを作ることはできません。
あなたの責任: 一時的に十分に動けないときは:
- 代替者の確保:任せられる人を積極的に探す
- 状況の共有:懸念される状況を座長チームやチームメンバーに早期に共有
- 透明性の維持:問題を抱え込まず、オープンに相談する
エスカレーションの判断
早期相談の重要性:
- チーム内で解決困難な問題は早期に座長チームに相談
- 「わからないから何もしない」状況を防ぐため、積極的に支援を求める
- 一時的に動けない場合は代替者確保や状況共有を怠らない
- 困難な状況では座長との1on1も推奨します
エスカレーション・プロセス:
- チームレベル:リーダー・サブリーダーによる状況把握
- 座長チームレベル:定期的なチーム状況の確認
- 緊急対応:必要に応じた即座の支援体制の構築
座長チームからの直接支援: 提案型で動ける人が一人もいない場合は:
- 座長自身の介入:必要に応じて座長が直接チーム運営に関与
- 伴走者の派遣:座長チームから経験豊富なメンバーがチームを回す支援を提供
- 一時的な体制変更:チーム構成や役割分担の見直し
おわりに
理想的な「仕事をはぎ取ってもらう」モデルは重要ですが、現実の組織運営では、メンバーの多様性を認識した段階的なアプローチが必要です。
2-6-2の法則を踏まえ、それぞれのメンバーが最大限に力を発揮できる環境を作ることが、座長としての重要な責務だと考えています。完璧なシステムはありませんが、継続的な改善を通じて、全員が活躍できる組織作りを目指していきます。
主催メンバーの皆さん、一人ひとりの貢献が PyCon JP 2025 を支えています。あなたの立場に関わらず、困ったことがあれば遠慮なく相談してください。私たちは皆さんの活動を全力でサポートします。
更新履歴
- 2025-07-05: 初版公開